『吉原花魁日記 光明に芽ぐむ日 (朝日文庫)』 森 光子

「もう泣くまい。悲しむまい。復讐の第一歩として、人知れず日記を書こう――書くことは、妾を清める」

吉原花魁日記 光明に芽ぐむ日 (朝日文庫)

大正13年、19歳で吉原郭に花魁として身売りした著者の日記。

装丁がこうの史代氏なのでアイキャッチもあり、暗い内容を重く見せずにやわらかい雰囲気。こうの氏の絵柄は明治~昭和のテイストによく合うと思う。

 

著者の森光子は、明治38年群馬県高崎市生まれ。貧しい家庭の事情により入郭するも、2年後に柳原白蓮氏を頼りに妓楼から脱出する。

花魁というと「~でありんす」のような郭言葉(これは昔の花魁のイメージ)、折檻や外界に脱出できないなど厳しい戒律のイメージがあったが、本書では花魁たちは一般的な話し方をしているし(時代を感じる言い回しはあるものの)、さらっと抜け駆け的に郭を脱出したり(それも複数人の花魁が)とどこかゆるさも感じた。

 

郭内での女性の妬み嫉み、一癖ある風変わりな客の数々、楼主が理不尽に取り仕切る玉代の支払い内訳など、かなり赤裸々に描かれている。

わかりやすい表現で直球な言い回しが多く、時代感を感じさせずリアリティのある筆致も相まって、読みやすかった。

 

また当時の女性の識字率について調べ切れていないが、

著者は客から書籍を貸してもらったり、有識者の客とも馴染みになったりと

かなり学のある女性である(店での番付がほぼ上位3位以内に入るような売れっ妓であるのも納得だ)。

著者の学力が他の女性に比較しても高いように見えるが、その辺りが気になった。

 

ただ息をするだけでもつらい日々の生活において、

続けて日記を書くこと、しかも自分にとって重く苦しい内容を書き続けるという著者の姿勢はかなり忍耐力が必要だし、まさに絞り出した言葉の数々という印象。

 

つづきが気になったので、続刊の「春駒日記 吉原花魁の日々」も読了予定。